カワウソの独り言

偏愛する映画と本について書いています。

『女神の継承』『哭悲/THE SADNESS』

『女神の継承』(The Medium, 2021)

「理解できないものは怖い」

心霊番組を模したモキュメンタリー形式の作品。前半でほぼ主役的存在の巫女ニム(これを邦画でやると『来る』の柴田理恵になるのだろう)、アンガールズの山根を思わせるニム姉ノイの夫など、近所のおばさん・おじさん風の等身大キャラクターかつ、皆やたらと声を張り上げたりしないので現実味があり、ドキュメンタリーを観ているのに近い感覚に陥る。後半のキーキャラクター、ニムの姪ミンは、そうした日常的キャラクターたちと馴染みが今ひとつなほどずば抜けて美しいのだが、その美しい姿形が歪んでいく過程の凄みはまた、恐怖を感させる部分だった。神は崇め奉れば助けてくれるまでいかなくとも、少なくとも好意的には接してくれる存在という信心は、いささか過度な願望であり、都合のいい幻想にすぎないことを思い知らされる。何をどうするのが正解なのかが明確に示されず、知る手掛かりもなく、原初的でありながら人智を超えた存在へのそこはかとない畏怖がいつまでも付き纏う。[2022.10.09/新文芸坐オールナイト「人力!呪術!ウィルス! 人が死に過ぎるホラーナイト」]

 

『哭悲/THE SADNESS』(The Sadness, 2021)

「尊厳を踏みにじられる嫌悪感」

人が過剰な肉体損壊を伴う方法で苦しめられ、殺されるさまを描く、いわゆるトーチャーポルノ的要素が強い。死姦や性器の損壊、また本来されるべきでない部位への性器挿入など、辱められ、貶められ、尊厳を踏みにじられることへの嫌悪感が恐怖の正体だと思う。ウイルスに感染した人間の目は白目がなくなり、真っ黒になる(『Xファイル』S3ep15「海底」で人を侵すエイリアンのウイルス“ブラックオイル”を思わせる)。この、日常まず見ない異様な風貌が恐怖を呼ぶが、言い換えれば、「そんなものだ」と思ってしまえば怖さも感じなくなるかもしれない。例えば同じ黒目キャラの『マンダロリアン』ベビーヨーダが可愛いと思えるのは、造形によるところも大きいが、彼は明らかに異星人であって、どんな風貌をしていてもそれはそれとして受け入れる準備ができているからだろう。恋愛要素を盛り込んでしまうところに、ひと昔前のフジテレビのドラマっぽさを感じる。登場人物たちがオーバーアクション気味なのも、逆に「つくりもの」感が強まって怖さが薄まる部分であった。ゾンビものの常で「感染源を断ってしまえばなんとかなる」という、ある意味の安心感があり、後味はさほど悪くはなかった。[2022.10.09/新文芸坐オールナイト「人力!呪術!ウィルス! 人が死に過ぎるホラーナイト」]