カワウソの独り言

偏愛する映画と本について書いています。

週刊ALL REVIEWS Vol.97で紹介した本(未読)

 新刊、旧刊の別なく旬本の書評が無料で読めるサイト「好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS」から、1週間分の新着書評を週1回メルマガで届けるサービス「週刊ALL REVIEWS」に参加してもうすぐ2年になる。サイトで紹介されている本から気になる一冊をとりあげて、簡単に紹介する短い巻頭言を書くというもの。最新号が昨夜、登録者のもとに届けられた。ズボラで根気のない私がなんとか続けてこられたのは、寛大なる編集長hiroさんのおかげ。こまめにスケジュールを告知し、毎週、担当者にさりげなく催促する素晴らしい差配ぶりには憧れます。なんと来月、100号を迎えるという(凄い)。読書の趣味も傾向も異なる4人が選ぶ本はさまざま。ほかの3人がどんな本を紹介するのか、私も楽しみにしている。この活動、もっと知られてほしい!だから、今号から自分が担当した巻頭言を記録していこうと思う。

 次号からの申し込みは下記リンクをクリック!

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  告知のツイートはこんな感じ。

 そして、本文。

ハイテクがもたらす幸せについて考えてみる

 コロナ禍が本格化した昨年の今ごろを思い起こしてみる。得体の知れないウイルスに対してまず起こった騒動はマスクの争奪戦だった。お決まりの買い占めから高値転売を経て、本来使い捨てであるはずの不織布のマスクをケバ立つまで洗って使う人まであらわれた。マスクは、ワクチンが兆しも起こってもいなかった当時、命を守るために考えられ得る最善の手段のひとつだった。そんな命綱であるマスクを求めて文字どおり右往左往する私たちを尻目に、お隣の台湾ではひとりの天才の指揮のもと、あっという間に「誰もが安心してマスクが買えるシステム」ができあがっていた。世界に名を轟かせた「マスクマップ」を含む台湾の新型コロナウイルス対策については、「オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る」(毎日新聞社

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に詳細が記されている。購入は実名制で行われるため、当然、個人情報保護の問題が出てくる。また、多岐にわたる行政機関と民間を連携させなければならない。それをたった3日で一定の解決を得てシステムを実現したのは高いITスキルの賜物なのだろうが、そもそも政府への信頼がなければ進まないことだろう。皆保険制度をしき、一つの政策に複数の省庁が絡む構造は日本とまったく同じなのに、この差は一体、何なのだろうと考えさせられてしまった。

 チップや端末が構築する未来において、もはや個人情報は箪笥にしまい込んでおけるものではなくなる。便利で安全な暮らしとのトレードオフだ。オンラインで英語の教師をしているセルビアの友人は中国の会社とも契約しており、英語学習ブームが続いている中国の老若男女さまざまな生徒に教えている。そこで驚いたのが、と友人曰わく「個人情報をなんでも政府に渡してしまうこと」。生徒たちの話によれば、現状コロナ禍をほぼ制圧し、以前と同じ日常を世界トップクラスで取り戻した政府への称賛と信頼は厚いらしく「体にチップを埋め込んでもいい」という者までいるそうだ(もちろんこれはごく一部の限られた人たちから聞いた話であることはお留めおきいただきたい)。約14億人と日本の10倍以上の人口を抱える国が国として機能するために情報とハイテクによるコントロールは必然とはいえ、他国のことながら、やはり「誰に、どこまで」は気になるところだ。無駄な抵抗などやめてさっさとすべて明け渡し紐付きの完璧な生活を手に入れるのが幸せなのか、不便さと困難付きの“完璧な”自由を謳歌するのを誇りとすべきなのか。容易に答えが出せそうにはない問題だから、百考は一読にしかず。世界最強のIT国家となりつつある中国の今を伝える「中国 異形のハイテク国家」(プレジデント社)

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を次に読んでみようと思う。書き手の赤間清広さんの入念なる現地取材に基づいたフィクション。ALL REVIEWSの紹介ページには抜粋があり、自動運転にかんするエキサイティングな一節を読むことができる。「異形の」というタイトルにふさわしい半端のなさ。大いに興味をそそられる。もっとも、読み終わるころには彼らはさらに先へと進んでいるかもしれないけれど。(朋)